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【タイの奇跡】いきなり世界デビューしたタイのローカルバンドの話

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世の中には「奇跡」と呼びたくなる話があるものですね。

日本ではあるお笑い芸人がネットにアップした1本の短い動画がキッカケで、一躍世界の人気者になったという事がありましたが、タイでも同じようなミラクルな話がありました。

そのバンドはタイのペッチャブーン県のロムサックという僻地でひっそりと活動していました。名前は「ピン・プラユック・カナッ・クン・ナリン・シン(พิณประยุกต์ คณะ ขุนนรินทร์ศิลป์)」(以下「クン・ナリン・シン」)といいます。

バンドといってもロックなどを演奏している若者のバンドなどではなく、地元でお祭りや催事がある時に演奏する有志が集まるグループですので、コンサート活動をしている訳ではなく、もちろんCDデビューを目指していた訳でもありません。

しかし、1本の動画が彼らの運命を大きく変えてしまいました。

その運命を変えた動画というのが、2011年にYouTubeにアップされたこの動画です。

何の変哲も無いこの動画。この手のバンドはタイ各地に沢山いますし、彼らだけが突出した何かを持っているという感じでもありません。それに、特に再生回数が多かった動画という事でもありませんでした。

ただ、この動画が偶然あるアメリカ人の目に留まった事から、このバンドの運命が大きく変わります。

そのアメリカ人とは、ジョシュ・マーシー(Josh Marcy)という人で、彼はロサンゼルスの音楽プロデューサーでした。

ジョシュはこの動画を見て、そのサイケデリックなサウンドに衝撃を受けます。そして、自らの足でこのバンドがいるペッチャブーン県ロムサックへと向かいました。

そこでバンドの演奏をフィールド録音し、2014年にInnovative Leisureというレーベルからリリースされたのがアルバム「クン・ナリン・エレクトリック・ピン・バンド(khun Narin Electric Phin Band)」です。

Khun Narin Electric Phin Band(พิณประยุกต์ คณะ ขุนนรินทร์ศิลป์)

◆ジョシュがロムサックに訪問した際のショート・ムービー

英語表記されたバンド名をタイトルにしたこのアルバムは、何のギミックも施されていないチープで素朴なサウンドが収録されています。日本人にとってはどこか懐かしさを感じさせる音ですが、欧米人にはサイケデリックに感じるようですね。

タイではこの手の音楽を録音して、さらにCDとして発売するという意識はこれまでになかった為、CDになったのはこれが世界で初めてではないでしょうか(事実、今でもこのCDはタイでは売られていない)。

ちなみに、バンド名に付けられている「クン・ナリン」の「クン」ですが、タイ語の「~さん」を意味する「クン(คุณ)」ではなく、「首領、リーダー」の意味の「クン(ขุน)」ですので、お間違えのないように。

ここまででも充分ミラクルな話ではありますが、この後の展開がさらに凄いです。

彼らはこのアルバムが発売された事で世界に名前が知れ渡り、ついにはフランスの大きな音楽フェス「Trans Musicales 2015」に出演する事になってしまいました。

タイの僻地で活動していたバンドが首都バンコクをすっ飛ばして、いきなりフランスの大舞台での演奏。しかも、タイでは地元民しか知らない存在だったのですから驚きです。

なお、このフランスでの演奏はよそ行き用で、現地で演奏しているスタイルとは若干異なります。違う点はドラム・セットで、現地で演奏している時と同じという訳にはいかず、一般的なドラムスが使われています。とはいえ、選曲はそれほど変えている訳ではないので、彼らの本来の音楽が損なわれているという事はありません。

それなのに、動画を見るかぎりでは結構な盛り上がりようです。まさかタイの単なる田舎バンドの音楽がここまで海外で受けるとは、誰が想像したでしょうか。多分、一番ビックリしているのは本人達であり、タイの人達でしょうね。

彼らの活躍はタイの業界でも注目されていたようで、テレビ局「VOICE TV」でも取り上げられていました。

ちなみに、ライブ動画でチャープという大きいシンバルを持って酔っぱらいのように踊っているオッサンがいますが、彼がこのバンドのリーダー、ナリンさんです。

その後も海外の音楽イベントに何度も呼ばれ、各国で演奏してきたクン・ナリン・シンですが、タイの一般人にはその名前が知られる事はほとんどありませんでした。

それもそのはずで、先にも述べたように、タイではこの手の音楽は地元民が催事などの時だけに聴くものであって、わざわざCDやコンサートで聴くようなものではないからです。

当然、こうやって地元以外で演奏しているこのタイプのバンドは、タイではこのクン・ナリン・シンしかいません。

しかし、ここに来てタイでも俄かに彼らが注目される動きが出てきました。

2017年12月にパタヤで開催された音楽フェス「Wonder Fruit」に出演したのです。 しかも、メインステージでの演奏でした。

ピン・プラユックのバンドが音楽フェスで演奏するという事は、タイ国内ではこれまで全く無かったでしょう。そう考えると、彼らの活躍はこのジャンルの音楽にとってエポックメイキングな出来事であった事には間違いありません。

何度も言っているようにタイではこの手の音楽を家で面白がって聴く慣習はありません。ですので、クン・ナリン・シンのように将来的にCDやコンサートデビューするこの手のバンドの数が増えてくるかというと、それはほぼ無いでしょう。

そういった意味では、このクン・ナリン・シンがCDデビューしたという事も、彼らが海外でコンサートをしているという事も、さらにこのサウンドが外国人に受けているという事も、すべてが奇跡であると言っても過言ではないでしょう。

◆A short documentary on Khun Narin Electric Phin band

※ピン・プラユックとクン・ナリン・シンに関しては、本「旅するタイ・イサーン音楽ディスクガイド」にも詳しく書かれていますので、こちらもご参考に。

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