
今、タイを賑わせているひとつの歌があります。
その曲はシーヂャン・ウィーシーとペンナパー・ネープチットが歌う「クラーン・チュー・アーイ・ネー(ครางชื่ออ้ายแน)」。直訳すると「あなたの名を呼ぶあえぎ声」という意味です。
2018年6月にリリースされたこの曲が何故、今この時期になって注目されているかというと、10月17日に行われたモーラム楽団「シラピンプータイ(ศิลปินภูไท)」の楽団開きコンサートでこの曲がカヴァーされた際の演出がキッカケでした。
その時の映像がこちらです。
※現在、シラピンプータイのステージでこの曲は歌われていますが、演出は変更されています。
この映像はその場にいた僕が撮影したものですが、インターネットでも生中継されていて、それを観ていた人たちがシェアし、瞬く間に世間に広まっていきました。
これを観たルークトゥン関係者や一般の人が「これはけしからん!」「下品だ!」となり、ニュースでも取り上げられるほどになったのです。
この曲に関しては後ほどくわしくお伝えしますが、こういう騒ぎになったのは曲が、というよりもシラピンプータイの演出がちょっと露骨だったという事が原因でした。
しかし、この事はリリース当時はほとんど反応が無かったこの曲にスポットが当るようになった重要なキッカケになりました。
ところで、この「クラーン・チュー・アーイ・ネー」という曲は外国人の我々が聴いてもすぐエロい曲だという事が分りますが、ルークトゥンモーラムでは下ネタがテーマの曲が沢山あります。それはある意味「伝統」と言えるほどに。
そこで、数ある歌の中からちょっとエッチなフレーズがある曲を10曲ほどピックアップしてみました。
これをご覧いただければ、ルークトゥンモーラムのひとつの魅力が分かってもらえるのではないかと思います。
目次
カン・フー(คันหู)
「エロい歌」ですぐ思い出すのがこの曲です。
「カン」=痒い、「フー」=耳、で直訳すると「耳が痒い」となるのですが、フーは「ヒー(หี)」の比喩になっています。
「ヒー」とは女性器の事です。つまり、この歌は女性が「あそこがむずむずする~」と歌っている曲なのです。
この曲のオリジナル歌手はリウ・ワーリッサラー(หลิว วาริสสรา)という人ですが、世間に知られるようになったのはヂャR-Siam(จ๊ะ อาร์สยาม)が無名時代にパブでこの曲を派手なあえぎ声を付けて歌っていたのがネットにアップされたのがキッカケでした(その頃の動画はこちら)。
「耳が痒いから注射して~」という内容のこの歌。この時も賛否両論あり、ヂャは散々テレビなどのメディアに引っ張り出されました。しかし、最終的には若い女の子を味方に付けて、今や歌手というよりエンターテナーとしてその地位を確立したと言えるでしょう。
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ギン・タップ(กินตับ)
この曲も一世を風靡しました。
歌っているテン・トゥートゥン(เท่ง เถิดเทิง)は本職は歌手ではなくコメディアンですが、この曲は歌っているだけでなく、自身で作詞・作曲もしています。
「ギン(กิน)」=食べる、「タップ(ตับ)」=レバーで、直訳すると「レバーを食べる」という意味になりますが、「タップ」という言葉がエッチの時のその音を連想させることから、男女の行為を意味しています。
この曲がテーマとして使われた映画「テン・ノーン・ヂーウォーンビン(เท่ง โหน่ง จีวรบิน)」と共に大ヒットしました。
グラッセ・カオ・マーシ(กระแซะเข้ามาซิ)
ルークトゥンの女王、プムプアン・ドゥアンヂャン(พุ่มพวง ดวงจันทร์)もその手の歌を歌っています。
ただ、それほど露骨なものではなく、歌詞の一部でちょっとエッチな雰囲気を匂わせているといった感じですが。
この「グラッセ・カオマーシ」は今でも沢山の歌手に歌われている大人気曲ですが、歌詞は目を付けた男性に「もっと近くに来てよ」と女性の方から仕掛けるという内容です。
そして、その歌詞の中には「อีกกี่วัน จะได้ เจาะ ไข่แดง(イーク・ギーワン・ヂャダイ・ヂョ・カイデーン)」という部分が出てきますが、訳すると「(卵の)黄身に穴を開けるまであと何日かかるかしら」という意味になります。
「黄身に穴を開ける」というのは、つまり抱かれる日をまっているという事を言い換えた言葉でもあるのです。
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シ・ヒ・ノーン・ボ(สิฮิน้องบ่)
セクシーなMVが話題となり大ヒットしたグン・スパーポン・サーイラック(กุ้ง สุภาพร สายรักษ์)の曲「シ・ヒ・ノーン・ボ」。
リリースから2年以上経ちましたが、今でもコンサートではよく歌われる定番曲になりました。
タイトルはイサーン語で直訳すると「私の事が気に入らないの?」という意味になりますが、「ヒ(ฮิ)」の部分を「ヒー」に置き換えると、「私としたくない?」となり、裏にそういう意味が隠されています。
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プー・ニープ・イーピ(ปูหนีบอีปิ)
ポン・ヂャンタポン(พร จันทพร)が歌うこの曲も大ヒットし、多くの歌手がコンサートで歌っていました。
タイトルは「イーピをカニが挟んだ」という意味になるのですが、この「イーピ(อีปิ)」が何を意味しているのかが残念ながら追い込めませんでした。
イサーン語であるのでしょうが、多分男性器の比喩ではないかと思います。
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サーオ・カーイ・ウィー(สาวขายหวี)
モッデーン・ヂラーポン(มดแดง จิราพร)の名前が世間に知られるキッカケになったこの曲。
タイトルは「櫛(くし)を売る娘」という意味ですが、「ウィー(櫛)」は実は「ヒー(女性器)」の比喩になっています。
「田舎から都会に出てきて色んな仕事をしたけど、なかなかお金がたまらない。だから私は決めた、櫛を売る事にしたの」という意味合いの歌詞なのですが、その櫛の部分を女性器に置き換えるとその意味がより分るのではないでしょうか。
つまりこれは売春の歌なのです。
この曲も大ヒットし、いろんなコンサートで沢山の歌手が歌っていました。中には「ウィー」の部分をはっきりと「ヒー」と言い換えて歌っている歌手もいたほどです。
こういう歌を軽快なリズムに乗せて歌えるのも、タイ音楽のひとつの魅力と言えるでしょう。
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ノーン・トゥーン・クワーイ(น้องตื่นควาย)
モッデーンの歌にはこの手の内容のものが結構あります。
この「ノーン・トゥーン・クワーイ」は直訳すると「水牛を目覚めさせた女の子」となりますが、ここの「クワーイ(水牛)」も比喩になっていまして、この場合は「クワイ(ควย)」=男性器の事を表しています。
「クワイ」を「クワーイ」と置き換えている歌は他にも沢山あります。その場合も大抵は裏の意味がある事を意識して聞くと、その歌をより楽しめるでしょう。
蛇足ですが、カンチャナブリーに「クウェー川(แม่น้ำแคว)」という有名な川がありますが、ガイドブックではよく「クワイ川」と表記されています。
タイでこの通りに発音してしまうと、全然違う意味になってしまうので注意しましょう。
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プローイ・ナムサイ・ナーノーン(ปล่อยน้ำใส่นาน้อง)
ラーンホイ・コーイ・アーイ(ล้างหอยคอยอ้าย)
8と9の2曲はペット・サハラット(เพชร สหรัตน์)と豪華女性歌手陣が共演したアルバム「マット・デット(หมัดเด็ด)」に収録された曲です。
特に「プローイ・ナム・サイ・・・」は先行シングルカットされ、絶大な人気を得ました。
各単語の意味は、プローイ(ปล่อย)=~しておく、ナーム(น้ำ)=水、サイ(ใส่)=~に入れる、ナー(นา)=畑、ノーン(น้อง)=年下の女性を呼ぶ時の二人称・三人称、となるので、まとめると「彼女の畑に水を流し込む」となるでしょうか。そうなるとだいたいの意味はお分かりになるでしょうか。
もう1曲の「ラーン・ホイ・コーイ・アーイ」はさらに直接的で、タイトルの意味は「あなたに貝を洗ってもらえるのを待ってる」となっています。
「ホイ(貝)」の意味はタイ好きの男性なら知っている方は多いと思いますが、女性器の隠語としてよく使われる言葉です。
アルバム「マット・デット」はそもそも「絶倫」という意味があり、この2曲だけでなくほとんどの曲が女性との交わりをテーマにした曲で構成されています。

ペット・サハラットと豪華女性歌手5人によるコラボレーションアルバム「マット・デット」
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クラーン・チュー・アーイ・ネー(ครางชื่ออ้ายแน)
最後は今、世間を騒がしている問題の曲、シーヂャン・ウィーシーfeat.ター・ペンナパー・ネープチットによる「クラーン・チュー・アーイ・ネー」です。
今YouTubeで観る事の出来るMVは、残念ながら問題になった部分が世間への影響も考慮してか変更されてしまっていますが、もちろん曲の本質的な部分は変わっているわけではありません。
公開当初、全然話題にならなかったのに、4ヶ月経って思わぬ形で注目を浴びてしまいましたが、しっかり聴くとよく出来た曲であることが解ります。
あえぎ声で浮気相手を呼ぶアイデアもそうですが、この曲は最近の曲としては珍しく、モーラムのフォーマットをしっかりと踏襲した構成になっている点に関心させられます。
というのは、この曲は歌詞をメロディーに乗せているものの、ポップミュージックの基本であるサビがありません。
そして、男女の掛け合いで曲が進行していく点も、伝統的なモーラムとも共通する部分です。
この曲を作ったのは「ビックワン(บิ๊กวัน)」という名前で歌手としても活動しているグアノーイ先生(อ.งัวน้อย)です。
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こうして見ると、「クラーン・チュー・アーイ・ネー」が突然出てきた曲でない事が解っていただけると思います。これはルークトゥンモーラムの基本スタイルのひとつなのです。
ただ、今回の場合はちょっと表現が露骨だったかもしれませんが。
今後もこういったエッチな歌というのはどんどん出てくるでしょう。
しかし、それこそが生きたポップミュージックの証でもあるのです。