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【映画レヴュー】ルークトゥンの歌聖プムプワン・ドゥアンヂャンの伝説と真実

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◆พุ่มพวง(プムプワン)【พ.ศ.2554】

映画「プムプワン」限定DVDのジャケット

【タイトル】プムプワン(英題:ザ・ムーン)

【出演】 パオワリー・ポンピモン(プムプアン・ドゥアンチャン)、ナタウット・サキットチャイ(ティーラポン・セーンスック)、ブントーン・コンヌム(ワイポット・ペットスパン)、ウィタヤー・チェタパイ(モン・ムアンヌア)

【監督】 バンディット・トンディー

【制作年】 2011年

【タイ公開日】2011年7月21日

ルークトゥンモーラムに関心のある人なら無視出来ない映画「プムプワン(英題:The Moon)」。

改めて言うまでもなく、不世出のタイの歌手、プムプワン・ドゥアンチャン(1961~1992、本名:ラムプン・チットハーン)の生涯を描いた作品です。

彼女は自分にとってもタイ音楽を聴くキッカケになった大切な歌手なので、映画化のニュースを聞いた時から楽しみにしていて、DVDも発売された時すぐに喜び勇んで買ったものの、いざ手にしてみると実際に本編を観るのにかなり勇気が要りました。

2011年6月、MBKの映画館前に飾られていたポスター。現地での公開は2011年7月21日でした。

というのも、映画の出来そのもののへの不安というより、今まで自分が抱いていたプムプワンに対するイメージが崩れてしまわないか、などと余計な事を考えてしまって、プレーヤーのスタートボタンをなかなか押せなかったのです。

しかし、ともかく自分の目で観ない事には話が進まないので、勇気を出してDVDをプレーヤーにセットしてみました。

で、本編を観た感想はというと・・・。

重い内容でした。とてつもなく・・・。

はっきり言って今の自分にはこの映画が良い映画なのか、悪い映画なのか、客観的に判断する事は出来ません。

ただ、一つ解った事は、タイの人がこの映画について「可哀そすぎて観られない」と言っていたという事を聞きましたが、リアルタイムに生前のプムプワンを知っている人やそれなりに彼女に対して思い入れがある人などにとってはかなり辛い内容だという事です。

特に、プムプワンが体調を崩して以降の部分は、その悲壮感は尋常じゃありません。それだけパオ(パオワリー・ポンピモン)の演技が見事だという事も言えますが。

2011年6月ウェーティータイのコンサートに映画の衣装を着て登場したパオワリー・ポンピモン。この時はまだ歌手としては正式デビュー前だった(撮影:筆者)。

プムプワンの生涯

プムプワンの生涯に関してはこれまでも多くの所で語られてきていますが、ネタバレにならない程度に簡単に振り返ってみたいと思います。

1961年8月4日、タイのチャイナートで生まれたプムプワンことラムプン・ヂットハーン。彼女が成長した後、家族はスパンブリーのソーンピーノーン村に移り畑仕事をしていましたが、あまりの貧しさゆえに小学校も途中で退学し、家の仕事を手伝っていました。

歌が好きで畑仕事の合間に妹たちに歌って聞かせていて、その上手さから村の歌のコンテストなどに出場し賞をもらったりしていたそうです。

15歳でワイポット・ペットスパンに弟子入りし楽団で活動していましたが、恋愛禁止のルールがあったにも関わらずそこで出会ったティーラポンと恋仲になり、ワイポットから破門されてしまいます。

その後、ティーラポンと共にバンコクに出て歌う仕事を模索しましたがなかなか上手く行かず、長い低迷期が続きます。

やがて、ルークトゥンの人気作曲家ロップ・ブリーラット氏との出会いにより、プムプワンの才能が開花。一気にタイのトップ歌手へと上り詰めます。

しかし、栄光の裏で私生活では幸せに恵まれませんでした。

売れない時代を献身的に支えて来た夫のティーラポンは、プムプワンがスターになり彼女が忙しくなるにつれ心が離れていき、ついにはプムプワンの妹と駆け落ちしてしまいます(一説によるとティーラポンはその後も浮気を繰り返し、それに怒ったプムプワンの弟に殺されてしまったという話があります)。

2番目の夫になった俳優のグライソンとは念願の一子を儲けましたが、彼もまたプムプワンを裏切り、他の女へと走ってしまいました(プムプワンが亡くなった時、グライソンはチェンマイで浮気相手と一緒に居たそうです)。

プムプワンと2番目の夫グライソン

プムプワンのひとり息子ペット(左)と2番目の夫グライソン(右)。二人は長年仲違いしていたが、近年仲直りしたよう(2015年7月のプムプワン追悼コンサートにて。撮影:筆者)。

また彼はプムプワンが文字が読めない事を知って、彼女名義だった土地の権利をすべて自分のものに書き換えてしまったという話もあります。

悲壮と多忙な仕事で体調を崩した彼女は、1992年6月13日、30歳という若さでこの世を去ってしまいました(亡くなる直前のプムプワンの様子は前川健一著「まとわりつくタイの音楽」にも書かれています)。

在りし日のプムプワン(FBページ「プムプワン・ドゥワンヂャン・ミュージアム」より)

映画に描かれたプムプワンの伝説と真実

本作ではプムプワンの伝記として有名なビンラー・サンカーラーキリー氏の著書「ドゥアンチャン、ティー・チャーク・パイ(ดวงจันทร์ ที่จากไป)」を元に脚本が書かれているようです。この本は大内治氏の著書「タイ・演歌の王国」の中に出てくる「プムプワン・ドゥアンチャン・・・逝ってしまったルークトゥンの女王」と同一のものと思われます。

この本、自分は読んでいないのではっきりとは言えませんが、物語として盛り上げる為にある程度のアダプトはされていると思って間違えではないでしょう(小説風ということなので)。当然、この映画の中でも進行上の理由から変更されている部分は多くあると思います。

◆映画「プムプワン」より「ローク・コーン・プン(プンの世界)」

例えば、プロデューサー、モン・ムアンヌア氏から「プムプワン・ドゥアンチャン」という名前をもらう場面では、原作では最初、別の名前「プムプアン・ペットイサーン」という名前をもらったが、中部タイ出身の彼女は「イサーン(東北タイ)」という部分に抵抗があり、その後「プムプワン・ドゥアンチャン」という名前が考え出されたとあります(プムプワン・ドゥアンヂャンという名前が使われる前は「ナムプン・ムアンスパン(น้ำผึ้ง เมืองสุพรรณ)」という名前が使われていた時期もありました)。

しかし、当初、彼女はこの名前も気に入らなかったらしく、しばらくは使わなかったという事です。ちなみに「プムプワン」とは「ふっくらした、豊満で美しい」、「ドゥアンチャン」は「月」という意味。

でも、このエピソードをそのまま再現しても物語としては盛り上がらないので、映画の中ではすんなり決まったという事になっています。

◆映画「プムプワン」より「グラッセ・カオ・マー・シ(もっと傍に来てよ)」

あと、最初の夫であるティーラポンがかなり美化されている印象を受けますね。

といっても、それまで伝わってきていた話からティーラポンの人間像を想像すると、どうしても「女たらしでどうしようもない男」と連想してしまいがちですが、「タイ・演歌の王国」で著者の大内氏も書かれているように彼がプムプワンをサポートした功績はやはり大きいという事でしょう。

何よりも、プムプワンの才能を一番解っていたのはティーラポンだった、という部分がこの映画からは伝わってきて、この点はこの映画を観て良かったと思わせてくれた大きなポイントでした。彼が実際はトランペッターだったのがサックス奏者に変更になっている点はさほど気になりませんでした。

◆映画「プムプワン」より「プーチャイ・ナイ・ファン(夢の中の男の子)」

自分が一番気になった点は物語の終らせ方です。多分、制作者サイドもこの点ではかなり悩んだと思われます。しかし、「伝記映画」とするには中途半端な終らせ方になってしまいました。プムプワンの妹と逃げてしまったティーラポンのその後や、クライソーンとの2度目の結婚から息子の誕生、そして死に至るまでのエピソードはエンディングでテロップで出てくるだけです。

ですが、全部を描いてそこまで生々しくする必要があるのか、と問われれば自分でも何とも言えません。自分が制作に加わっていたら、やっぱり美しいエンディングを選択していたかも・・・。

でも、彼女の生涯をしっかりと残しておきたいという気持ちも捨てきれないし。

映画「プムプワン」の注目すべきポイント

それでも、興味深いパートはいくつかあります。

一つはプムプワンのレコーディング風景。

文字が読めなかったという事で、歌詞カードを見ながらではなく、ハンドマイクを持って踊りながら歌うプムプアン。これは想像から作られたシーンというより、実際にそうだった可能性は高いと思います。まだ、ロップ・ブリーラット氏も存命ですし、それなりのリサーチはされているのではないか、と。

もう一つは制作者サイドの遊び心でしょうか、ワイポットにティーラポンと一緒にいるところを見られ、ティーラポンが楽団から追い出される所で、プムプワンが「ヌー・パイ・ドゥアイ(私も一緒に行く!)」というセリフ。これは、ファンならお気づきでしょうが、彼女の曲「ピー・パイ・ドゥー・ヌー・パイ・ドゥアイ(พี่ไปดูหนูไปดัวย)」に引っ掛けているような気がします。シーンとしては結構シリアスな場面なんですけどね。深読みしすぎかな?

◆映画「プムプワン」より「ダーオルアン・ダーオローイ」

こうして見ると、映画なりの面白みもあるし、重い内容ながらも不思議と繰り返し観たくなる気にさせてくれる映画でもあります。何より、プムプワン本人をこの目で観る事が叶わなかった自分のような人間にとっては、彼女を身近に感じる事のできる貴重な作品でもあります。

既にこの映画をご覧になった方々からはパオの演技が素晴しいという話を伺っていましたが、その点には自分も同感です。彼女がプムプワン役でなかったらこの映画は成り立たなかったでしょうね。

単なる同郷というだけでなく、パオにはプムプワンに通ずる才能を感じずにはいられません(それは歌の上手さ云々、というだけでなくタレント性、キャラクターなども含めて)。

※ちなみに、プムプワンの生涯が映像化されたのはこれが初めてではなく、これまで何度か映画やドラマになっています。

ドラマ版「ルークトゥンの女王プムプワン・ドゥワンヂャン」

最後に制作者について簡単に触れていおきますと、監督のバンディット・トンディー氏は映画「マーキュリー・マン」や「パーイ・イン・ラブ」などの作品を監督した人。プロデューサーのプラチャヤー・ピンケーオ氏は映画「マッハ」や「チョコレート・ファイター」を監督した人でもあります。

死後20年以上が経過した今、直接プムプアンを知らない世代がこの映画を観て彼女の存在を再確認してくれる事は歓迎すべき事です。

しかし、この映画に描かれているプムプアンは彼女の人生の一部でしかないというのは充分理解しておいて欲しい事です。

真実は、彼女が残した膨大な歌の数々を自分の耳で聴き、そこに何を思うか、聴き手の皆さんが自身の感性で感じ取っていただきたいと思います。

◆映画「プムプワン」予告編

↓パオワリー・ポンピモンが歌う映画「プムプワン」のサントラはこちらから購入可能です。


※この記事は前ブログ「タイ式エンタテイメントの楽しみ方」に2012年2月5日投稿したものを再編集しました(元記事⇒http://blog.livedoor.jp/kapiraja1968/archives/1428902.html)。

◆参考FBページ「プムプワン・ドゥアンヂャン・ミュージアム

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