
4ヶ月弱で2億再生突破の大ヒット曲
今、タイ全土で爆発的な人気を博している曲がある。
リリーfeat.ガオの「ルーク・クイ・タン・アンプー・プア・トァー・コンディアオ」という曲がそれ。
◆ลิลลี่ ได้หมดถ้าสดชื่น feat.เก้า เกริกพล(リリー・ダイモット・ターソットチューンfeat.ガオ・グルークポン)/เลิกคุยทั้งอำเภอเพื่อเธอคนเดียว (ルーク・クイ・タン・アンプー・プア・トァー・コンディアオ)
2019年3月中旬に公開され、それから2ヶ月弱で1億再生を突破した。7月上旬の現在はすでに2億再生に到達している。
基本、タイ音楽(特にルークトゥンモーラム)を聴くのはタイ人かその周辺の国の人に限られているから、日本の約半分の人口のこの国においては、驚異的な数字である。
この曲のヒットで注目すべき点は、歌っているリリーという女の子ではない。注目すべきは、この曲を作ったジェニー・ラチャノック(เจนนี่ รัชนก)という人である。彼女はMVにも登場している(カフェの店員役)。
◆ジェニー・ラチャノック
ジェニーはもともと自分でも歌う人だが、今回は妹リリー(本当の妹だそうだ。全然似てないけど)に任せたら、大ヒットとなった。
普段、裏方の人間になんか目を向けないタイの人たちだが、今回は誰がコントロールしているのかをしっかり見極めたようだ。
結果、歌っているリリーよりジェニーの方に人気が出たという、面白い現象が起きた。まぁ、リリーに一人で舞台に立たせたところで、大した事は出来ないだろうが。
それと、注目すべき点がもうひとつ。それは、このジェニーとリリーはタイ南部出身の歌手であるという事。
ルークトゥンモーラムに少しでも興味のある人なら、今のこのシーンはほとんどがイサーンの歌手でなりたっている事はお分かりであろう。
決して今のイサーン勢が面白くないと言う訳ではないが、対抗する勢力が無いとシーンが活気付かないのは自明の理である。そんなシーンに大きな勢力となる存在が南部から登場した訳だから、このジャンルのファンとしては無視する訳にはいかない。
それに、彼女はただ歌うだけではなく、自ら作詞・作曲をする才能を持っている。
男性歌手・バンドがほとんどの南部で、歌手というだけでなく、クリエーターとしての才能も持ち合わせている女性が登場した事は、嬉しい驚きだった。
そんな訳で、このジェニー・ラチャノックという人のこれまでの活動や、バンコクでのライブで、実際どれほどの人気なのかを調査してみた。
ジェニー・ラチャノックの経歴&代表曲
ジェニー・ラチャノックの本名はラチャノック・スワンナゲート(รัชนก สุวรรณเกตุ)。
出身はナコンシータマラート(นครศรีธรรมราช)で、2019年で24歳という事だから、1995年頃の生まれという事だろう(ちなみに妹リリーは現在15歳)。
ちなみに、歌手名の表記の際、名前の後に付けられる「ダイ・モット・ターソット・チューン(ได้หมดถ้าสดชื่น)」というのは、彼女の曲のタイトルでもあり、レーベル名にもなっているものである。
実はジェニーの存在は、今回のリリーの曲のヒットよりも前に知っていた。
「ルーク・ガップ・ピー・ダイ・ディー・トゥッコン(เลิกกับพี่ได้ดีทุกคน)」という曲のMVをYouTubeで観た事があった。多分、何かの関連動画で出て来たのだと思う。
◆ เจนนี่ ได้หมดถ้าสดชื่น(ジェニー・ダイモット・ターソットチューン)/เลิกกับพี่ได้ดีทุกคน(ルーク・ガップ・ピー・ダイ・ディー・トゥッコン)
初めて聴いたジェニーの曲の感想は・・・、
正直な事を言うと「何か、変な曲」だった。
どことなく、面白さは感じていたけど、イサーンの曲ばかりを聴いていた耳には、結構違和感があったのは事実。
しかし、それはジェニーには真の意味での「オリジナリティー」があった証拠でもあると思う。
それが解るのは少々時間がかかったけど・・・。
この曲も作詞・作曲はジェニー自身によるものである。
この曲が彼女の最初の曲という訳ではなく、YouTubeでさかのぼってみた限りでは、2016年頃にアップされている曲が一番古いようである(ただし、ジェニーが歌い始めたのはそれ以前だと思われる)。
◆น้องเจนนี่(ノーン・ジェニー)/เลิกกินท่อมค่อยมารักกัน(ルーク・ギン・トーム・コイ・マー・ラックガン)
この曲「ルーク・ギン・トーム・コイ・マー・ラックガン」は2016年4月に公開されたもの。
この時はまだジェニーは曲作りには参加していなかったようだ。
それ故か、その後の彼女のキャラクターというのはそれほど出ていない。
特徴のある声はこの頃からあったようだが。
◆น้องเจนนี่(ノーン・ジェニー)/ทำร้ายใจ(タム・ラーイヂャイ)
「ルーク・ギン・トーム・・・」から数曲はさんで作られたこの曲「タム・ラーイヂャイ」という曲では、曲は別の人だが、詞はジェニー自身が手がけている。
この辺りから彼女も曲作りに参加するようになっていったようだ。
◆น้องเจนนี่(ノーン・ジェニー)/ได้หมดถ้าสดชื่น(ダイ・モット・ター・ソット・チューン)
この「ダイ・モット・ター・ソット・チューン」という曲から、ジェニーは作詞だけでなく作曲も担当するようになる。
結果、よりジェニーの個性が活かされる曲が作られるようになる。
この曲は今のステージでもよく歌われている曲である。
◆น้องเจนนี่(ノーン・ジェニー)/โสดแล้วนะ(ソート・レーウ・ナ)
「ソート・レーウ・ナ」もジェニーの個性がよく出ている曲である(ただし、彼女は作詞のみの担当で、作曲は別の人)。
「ダイ・モット・ター・ソット・チューン」では鼻にかかる歌い方をしていたが、この曲からはその辺も解消された。
また、この頃から妹リリーもMVに顔を出し始める(この曲ではリリーはラップも担当している)。
◆ เจนนี่ ได้หมดถ้าสดชื่น(ジェニー・ダイモット・ターソットチューン)/สาวนุ้ยสายเปย์(サーオ・ヌイ・サーイ・ペー)
今のジェニーのコンサートで1曲目に歌われているのが、この「サーオ・ヌイ・サーイ・ペー」という曲。
作詞・作曲はジェニー本人。
また、この頃から名前のクレジットがノーン・ジェニーからジェニー・ダイモット・ターソットチューンに変わっている。
これまでのジェニーの曲とはだいぶ雰囲気が違う曲だが、それは彼女がいろんな音楽をよく聴いているという証拠でもあると言える。
つまり、かなり音楽的ボキャブラリーのある人だという事だ。
ジェニー&リリーLive@バンコク
さて、ジェニーとリリーの人気は、インターネットを通じて海外にも伝わってきていたが、はたして実際はどうなのか。
ちょうど自分がタイを訪れていた期間にバンコクで二人のコンサートがあったので、行って来てみた。
場所はラムカムヘン大学2(通称ラム2)の向かいにある市場「ナンバーワン・マーケット」。ここは度々イベントが開かれ、コンサートもよく行われるので、ルークトゥンモーラム・ファンにはおなじみの場所である。
最近はセキュリティーの意味も含めて、コンサートを観る際は入場料を取る場所が多くなってきたが、ここでは無料だった。
1億再生超えの人気歌手のコンサートがあるからか、会場はかなりの人が入っていた。
少し早めに到着した事もあって、バックステージに行ってみると、まだ主役の二人は来ていなかったが、ほどなくしてジェニーがリリーを伴ってやってきた。
と同時に、舞台裏もかなり賑やかになる。
彼女らのコンサートを観るのは初めてだったので、どう進行していくのかは全くわからなかったが、基本的にはジェニーがメインで、最初ジェニーが一人で出てきて数曲歌い、中盤にリリーが出てきて2~3曲歌った後、またジェニーが一人で歌うという流れになっていた。
通常タイではヒット曲が出ると、1曲目に歌う事が多いが、それはお客の関心をステージ向かせるという意味もある(ルークトゥンモーラムのコンサートは基本的にビアガーデンのような場所で行われるので、必ずしもコンサート目当てに来ている客ばかりではない)。
しかし、今回はそうではなかったので、果たして盛り上がるのだろうか、と思ってしまったが、いらぬ心配だったようだ。
それは動画を観てもらえれば、良くわかる。
◆ジェニー&リリー、Live@ラム2 Part1
ジェニー登場時に彼女の名前を呼ぶ人、絶叫する人・・・。
ジェニー目当てに来ている人は多分南部の人たちなので、バンコクには南部の人たちも結構いるんだな、と。
それと、子供人気が凄かった。それは、コンサート終了後、2ショット撮影の時にも実感したのだが。
ジェニー本人も話しているが、この時、彼女らのコンサートがバンコクで行われたのは、これが2回目。前回は5月下旬にバンプリーでラムヤイと共演していた。
そんな事で「すごく緊張しているので、みなさん応援してくださいね」などと言っているが、そんな事はあまり感じさせない見事なパフォーマンスだった。
中盤になり妹リリーが登場して、例の大ヒット曲を歌う。
やはり、盛り上がりはここが一番だったかも。
◆ジェニー&リリー、Live@ラム2 Part2
あまり合唱するようなタイプの曲でもないと思うが、一緒になって歌う観客もすごい。よっぽどテンションが上がっていたのだろう。
途中、ステージに登場する子供がなかなかいいアクセントになっていて面白い。
自分で撮影しておいてこういうのも何だが、何度観ても飽きない動画である。
それと、正直な事を言うと、自分はこの時、この曲の良さをあまり理解してはいなかった。
しかし、このコンサートを体験して、ようやくこの曲の魅力がわかったような気がする。今じゃすっかりヘビーローテーションだし。
やはり、タイ音楽を理解するには、現場を体験するのが一番良い。
リリーはその他に2~3曲歌い、最後にもう一度「ルーク・クイ・・・」を歌うために登場するまでは、再びジェニーの番である。
今回はオリジナル以外にカヴァー曲も歌っていたが、バンコクである事を意識したのか、普段からそうなのか解らないが、イサーンの曲が多かったのは、個人的にはちょっと残念だった。
やはり南部の歌手らしい選曲を期待していたのだが・・・。
ただ、動画で観返してみると、これはこれで良いのだけれど。
◆ジェニー&リリー、Live@ラム2 Part3
1時間弱と短めだったが、ジェニーの才能の高さが良くわかるコンサートだった。
作詞・作曲が出来る女性歌手というだけでも充分アドバンテージがあるのだが、パフォーマーとしても一流だし、プロデュース能力もある。
この才能はきっと将来のタイ音楽を面白くしてくれるに違いない、そう確信させられた夜だった。
コンサート終了後、再び舞台裏に行ってみたのだが、そこにはジェニー&リリーと2ショットを撮ろうと集まったファンの長蛇の列が。
全員が終わるまで30分ちかくかかっただろうか。
でも、これはバンコクだからこれくらいで収まったのだろう。
多分、二人の地元の南部での人気はこんなものではないのだろう。
ジェニーの南部での人気はどうなのか?
ジェニーとリリーは再三言っているように南部の歌手なので、今はまだ曲がヒットしている最中なので、バンコクにも来たりするが、活動のメインは南部周辺である。
南部は遠くてなかなか行けないが、YouTubeのジェニーのチャンネルにナコンシータマラートで行われたライブを撮影した動画が遭ったので、観てみたら・・・、
想像以上の人気ぶりだった。
会場に人が入りきらなかったのか、舞台裏にまで観客が押し寄せてきてしまっている状態なんて、バンコク、いや、他にはとても考えられない。
しかも、周りはほとんどが子供。
やはり地元人気はとんでもない事になっているようだ。
◆ジェニー・ラチャノック@ナコンシータマラート
自分が歌っているわけではなく、他人(といっても妹だが)に提供した曲で一躍人気者になるという、珍しいケースでその名を知られることになったジェニー・ラチャノック。
次は自分が歌う曲でのヒットが課題だろうが、クリエーター・プロデューサーとしてのセンスもある彼女。
どんなアプローチで我々に仕掛けてくれるのか、当面目が離せない。