タカテーンのニューアルバム「ボーク・ヤイヤイ(โบกใหญ่ๆ)」が凄い!
2019年12月にリリースされた、タカテーンにとって11枚目にあたるこのアルバム(あれ?タカテーンって、9枚しか出してなかったんじゃなかったっけ?と思う方もいらっしゃるかと思いますが、そのことについてはアルバム紹介後に触れます)。
2017年に「ไหง่ง่อง(ンガイ・ンゴーン)」をリリースして以来、2年以上に渡って続けてきたモーラム路線ですが、それが血肉化され、タカテーン独自のスタイルとして昇華された、彼女のキャリアにおいても最高傑作と言いたくなるほどの充実した内容になっています。

タカテーン・チョンラダー、11枚目のアルバム「ボーク・ヤイヤイ」
歌唱力が高く、器用なタカテーンはこれまでも様々なスタイルの音楽に挑戦してきましたが、モーラムは一筋縄ではいきませんでした。
上手くこなしてはいるものの、どこか地に足がついていないような、表面だけをなぞっている感じが、他のイサーンの歌手の歌と聴き比べてみて、タカテーンの歌から聴き取れたのです。
この路線はもともと、タカテーンがペット・サハラット(เพชร สหรัตน์)と出会い、結婚した事で始まりました。
しかし、二人の関係は2018年に破綻。
彼女もそれを期にこの路線を止めるのではないかと思っていましたが、その別れをも糧に、タカテーンはこの路線を突き進めて行きました。
そもそも、タカテーンはコラート(ナコンラーチャシーマー)出身であるので、モーラムを歌ってもなんら不自然ではありません。
また、それまでのルークトゥン路線が煮詰まりぎみだったこともあり、この方向転換は渡りに船だったのではないでしょうか。
いずれにせよ、続けた事で、一つの完成形がこのアルバムで示されたわけです。
アルバム「ボーク・ヤイヤイ」の特徴
このアルバムは自主製作という形で制作されています。
ご存じの通りタカテーンはルークトゥンモーラムの業界最大手Grammy Goldの所属歌手です。
グラミーとの契約が終わったという話は聞こえてきていませんが、ここ最近のインディーブームと、レコード会社に所属している歌手もYouTubeで独自の活動を行っている事もあって、今回はこのような形になったと思われます。
そういう背景があったからこそ、より自由に、タカテーンが理想としている音楽を作ることが出来たのではないでしょうか。
そんな彼女の意気込みがアルバム全体から伝わってきます。
全7曲、トータル30分弱というヴォリュームも、若干短いと思うかもしれませんが、テンションが落ちずに最後まで聴くことが出来る、という意味ではちょうど良いと思います。
ただし、レコード会社を通していないということもあってか、販売形態はダウンロードのみで、今のところCDでリリースされる予定はなさそうです。
アルバムデータとMV
それでは、このアルバムに収録されている曲と、各曲のクレジットと共に、MVも併せて紹介したいと思います。
Tr.1:โบกใหญ่ๆ(ボーク・ヤイヤイ)
คำร้อง/ทำนอง(作詞・作曲): อ.สุริยันต์ ปากศรี(スリヤン・パークスリー)
เรียบเรียง(編曲): อ.สวัสดิ์ สารคาม(サワット・サーラカーム)
※名前の前についているอ.はอาจารย์(アーヂャーン=先生)の略。
このアルバムのタイトルにもなっている曲。
タカテーンとサワット・サーラカーム先生というのは、意外とありそうでなかった組み合わせです(もしかしたら何曲かあるかもしれないけど)。
サワット先生お得意のアッパーなアレンジで、このアルバム全体を象徴するような曲と言えます。
タイトルは「大きく腰を動かせ」という意味。その辺はMVを観てもお分かりになると思います。
Tr.2:ก่นร่อง(ゴン・ロン)
คำร้อง/ทำนอง(作詞・作曲): พันตา พนา(パンター・パナー)
เรียบเรียง(編曲) : กล้าไชย ไทหนองคาย(グラーチャイ・タイノーンカーイ)
大ヒットしたタカテーンの「ボ・ングット・ヂャック・メット(บ่งึดจักเม็ด)」を作ったパンター・パナーが手掛けた曲。

ギターを抱えている男性がパンター・パナー。
彼はこのアルバムの7曲中4曲を手掛けていて、今のタカテーンにとって重要な片腕になっている事がうかがえます。
タカテーンが一人二役をやっているMVも楽しい。
Tr.3:บ่แม่นแนว(ボ・メーン・ネーウ)
คำร้อง/ทำนอง(作詞・作曲) : พันตา พนา(パンター・パナー)
เรียบเรียง(編曲) : จินนี่ ภูไท(ジニー・プータイ)
โปรดิวเซอร์ (プロデューサー): ยีนส์ ศิลาแลง(イン・シラーレーン)
Tr.2同様、パンター・パナーが手掛けたダンサブルなナンバー。アレンジはBNK48「ドート・ディ・ドン(โดดดิด่ง)」も担当したジニー・プータイ氏。
いつものジニー氏特有のケーンを使ったアレンジとは若干違いますが、スピード感のあるアレンジが気分を高揚させます。
タイトルは「後釜なんかじゃない」という意味。
Tr.4:ขอบาย(コー・バーイ)
คำร้อง/ทำนอง(作詞・作曲) : พันตา พนา(パンター・パナー)
เรียบเรียง(編曲) : ศิลาแลง สตูดิโอ(シラーレーン・スタジオ)
โปรดิวเซอร์(プロデューサー) : ยีนส์ ศิลาแลง(イン・シラーレーン)
先の「ボ・ングット・ヂャック・メット」を思わせる、女性の怖さを形にしたパンターの曲作りの上手さとタカテーンの表現力の高さが見事に出ている曲。
MVが男にとってはかなり恐ろしい内容になっています。
これまでのタカテーンと言えば、スローの曲で情念のこもった歌を得意としていましたが、これは新しいスタイルの情念歌とも言えるのではないでしょうか。
Tr.5:มันคักเติบอยู่(マン・カック・トゥープ・ユー)
คำร้อง/ทำนอง(作詞・作曲) : ทิว สุรยุทธ แรกเลียง (Tiw timetoys )
เรียบเรียง(編曲) : อ๊อฟ ปิยะวัฒน์ หมื่นสนิท(オーフ・ピヤワット・ムーンサニット)
移り気な男心をテーマにした曲。
といっても、生易しいものではなく、そこはタカテーン流なので、かなり強烈。
タイの男はとにかく浮気性というのは、良く知られたところです(しかし、タイは女性の浮気も多いし、日本人もその辺は偉そうな事は言えませんが)。
このMVもかなり手の込んだつくりで、こんな工場があったら務めてみたい、と男だったら思ってしまうのではないでしょうか。
しかし結末は、やはり恐ろしい事になっています。
Tr.6:คิดนอกกรอบ(キット・ノーク・グロープ)feat.ยีนส์ ศิลาแลง(イン・シラーセーン)
คำร้อง/ทำนอง(作詞・作曲) : พันตา พนา(パンター・パナー)
เรียบเรียง(編曲) : อภิพัฒน์ เอื้อมหาโสภา&ศิลาแลง สตูดิโอ(アピパット・ウームハーソーパー&シラーレーン・スタジオ)
โปรดิวเซอร์(プロデューサー) : ยีนส์ ศิลาแลง(イン・シラーレーン)
ここからアルバムの雰囲気がガラッと変わります。
レゲエアレンジのほのぼのしたこの曲。
テーマが、ロック・ポップス系の歌手がルークトゥンの歌手とコラボする時に使われる、都会の人が田舎の良さを再発見というものです。
タカテーンとデュエットしている男性は、ここ最近のタカテーンのアルバムや、このアルバムでも4曲プロデュースを担当しているイン・シラーレーンことシラーレーン・アートサーリー(ศิลาแลน อาจสาลี)先生です。
タカテーンは「ソーロー・セーレー(ส่อหล่อแส่แหล่)」という曲でもレゲエを取り入れていましたけど、この曲ではより昇華された感があって、クオリティーの曲に仕上がっています。
Tr.7:โรงฆ่าสัตว์(ローン・カー・サット)
คำร้อง/ทำนอง(作詞・作曲) : เริงชัย ภารประสาท
เรียบเรียง(編曲) : ศิลาแลง สตูดิโอ(シラーレーン・スタジオ)
โปรดิวเซอร์(プロデューサー): ยีนส์ ศิลาแลง(イン・シラーレーン)
最後はバラードでしっとり・・・、
などと生易しく終わらせてくれないのが、タカテーンらしい。
タイトルのそれぞれの単語は「โรง(ローン)=場所」「ฆ่า(カー)=殺す」「สัตว์(サット)=動物」という意味で、まとめると「屠殺場」となります。
それだけでも、かなり物々しさを感じますが、曲は動物のように扱われる女性がテーマになっています。
MVの中でも、タカテーンが着ている白いシャツが、徐々に赤い液体で染まっていくという、観ているだけでもちょっとゾッとします。
このテーマのぶれなさが、このアルバムに深みを与えているような気がします。
総評
冒頭5曲まで突っ走って、残り2曲でクールダウンして終了というテンションが落ちずに、最後まで聴くことのできる構成。
そして、歌だけでなく曲作り、プロダクションなど、1曲1曲のクオリティーとテンションの高さ、どれをとっても見事な仕上がりです。
あまり完璧すぎると、息苦しくなって、繰り返し聴く気にならないアルバムもあったりしますが、このアルバムにはその辺は全く感じられません。
そして、何よりもタカテーンが生き生きとしていて、楽しそうにやっているのがアルバム全体から伝わってくるのが良いです。
それは、自主製作で、会社にやらされているのではなく、自分のやりたい事を100%に近い形で出来たからではないでしょうか。
あらゆるポジティブな要素が高い次元で結実した、理想的なアルバムが完成したと思います。
ルークトゥンモーラムの歴史に残る名作、と言っても過言ではありません。
「11枚目のアルバム」という謎
ところで、冒頭に触れた、タカテーンはこれまで9枚のアルバムしか出していないのに、なぜその次にでたこのアルバムが11枚目になっているのか、という謎について触れたいと思います。
まず、タカテーンのこれまでCDとして発売されているアルバム(コラボや企画ものは省く)は以下の通りです。
ชุดที่ 1(Vol.1) 「หนาวแสงนีออน(ナーウ・セーン・ネオン)」(2006-8)
ชุดที่ 2(Vol.2) 「ถนนค้นฝัน(タノン・コン・ファン)」(2007-8)
ชุดที่ 3(Vol.3) 「ดอกนีออนบานค่ำ(ドーク・ネオン・バーン・カム)」(2008-12)
ชุดที่ 4(Vol.4) 「คนเหงาที่เข้าใจเธอ(コン・ンガオ・ティー・カオヂャイ・トァー)」(2009-11)
ชุดที่ 5(Vol.5) 「เลือกคำว่าเจ็บ เก็บไว้คนเดียว(ルアック・カム・ワー・ヂェップ、ゲップ・ワイ・コン・ディアオ)」(2010-10)
ชุดที่ 6(Vol.6) 「รักได้ครั้งละคน เชื่อใจได้คนละครั้ง(ラック・ダイ・クラン・ラ・コン、チュアヂャイ・ダイ・コン・ラ・クラン)」(2011-12)
ชุดที่ 7(Vol.7) 「นาทีเดียวเพื่อรัก ทั้งชีวิตเพื่อลืม(ナーティー・ディアオ・プア・ラック、タン・チーウィット・プア・ルーム)」(2013-6)
ชุดที่ 8(Vol.8) 「อยากหลับตาในอ้อมกอดเธอ(ヤーク・ブラップ・ター・ナイ・オーム・ゴート・トァー)」(2015-2)
ชุดที่ 9(Vol.9) 「ของขวัญหรือของเหลือ(コーン・クワン・ルー・コーン・ルア)」(2016-12)
ご覧いただいたように、全9作なのですが、この後リリースされた今回のアルバムがなぜかVol.11となっていて、「?」となった方もいらっしゃるはず。
Vol.10はどこへ?
その辺を調べてみたら、どうやらそれはまとまった形でリリースされている物ではなく、これまでYouTubeで公開したり、ダウンロード販売したりした曲をまとめてVol.10という事にしているようです。
タイトルは「コート・レーウ・ナイ・ドゥアンヂャイ(โคตรเลวในดวงใจ)」。
未発表曲やGrammy Goldからリリースされた曲を集めた全10曲という内容。
収録曲は以下の通りです。
ชุดที่ 10(Vol.10) โคตรเลวในดวงใจ(コート・レーウ・ナイ・ドゥアンヂャイ)
Tr.1「โคตรเลวในดวงใจ(コート・レーウ・ナイ・ドゥアンヂャイ)」
Tr.2「บ่งึดจักเม็ด(ボ・ングット・ヂャック・メット)」
Tr.3「ส่อหล่อแส่แหล่(ソーロー・セーレー)」
Tr.4「สาดไล่โสด(サート・ライ・ソート)」
Tr.5「แมงขี้นาก(メーン・キー・マーク)」
Tr.6「โลกนี้คนดีๆ ยังมีอยู่ไหม(ローク・ニー・コンディー・ディー、ヤン・ミー・ユー・ナイ)」(未発表曲)
Tr.7「ความไว้ใจใช้ไม่ได้กับใครบางคน(クワーム・ワイ・ヂャイ・チャイ・マイ・ダイ・ガップ・クライ・バーンコン)」 (未発表曲)
Tr.8「โสดศรีมณีแสง(ソート・シームニー・セーン)」 (未発表曲)
Tr.9「มาช้าแต่มาแน่(マー・チャー・テー・マー・ネー)」 (未発表曲)
Tr.10「อย่างนี้ก็ได้เหรอ(ヤーン・ニー・ゴダイ・ロー)」
まだレコーディングされていない曲などもありますし、順番が逆になってしまったという事もあるので、この10枚目のアルバムが日の目を見る事は、限りなく0に近い気がします。
サブスクと購入先リンク
先にMVを全曲分紹介してしまっているのですが、音だけでじっくり聴きたい、自分の手元において気軽に聴きたいという方もいらっしゃると思いますので、購入先やサブスクライブのリンクもお伝えしておきます。
まずダウンロードで購入できるのは2か所あります。iTunesとAmazonです。
内容は同じですが、価格が違いAmazonの方が若干安いです。
しかし、音質の違いがあるそうなので、どちらで買うかはお好みで。
また、Spotifyでも全曲聴くことができます。
今はYouTubeやサブスクで、無料で聴くことが出来る良い時代になりましたが、やはりおすすめはお金はかかるけど、ダウンロードして聴いてほしいです。
それくらいの価値はあります。
そして、まだ、タイ音楽を聴き始めたばかりの人や、タイ音楽はどんなものか聴いてみたい、という人にも自信をもっておススメできるアルバムです。
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