モーラムについて知っておきたい基礎知識

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モーラムについて、自分はそれなりに分かっているつもりではいましたが、調べてみると知らないことはまだまだ多いな、と感じました。

それに何かと誤解されていたり、全体を捉えるのがなかなか難しい音楽でもあるので、ここで一度おさらいの意味も含めまして、簡単にまとめておきたいと思います。

モーラムって何?

モーラムはメコン川を挟み、ラオスとタイ東北部(イサーン)に伝わるラオス文化圏の伝統音楽で、基本的に語り物の芸能です。ですので、厳密にはタイだけの音楽ではありません。ただ、社会情勢的にタイで商品としてのモーラムが流通し、広く知れ渡っているというだけで。

実際、欧米や日本で編纂されている民族音楽をまとめたシリーズなどでモーラムが録音される場合は、ラオスで録音される事の方が多いです。

◆世界的に信頼の高いフランスのOcoraレーベルでリリースされている伝統モーラムの録音。

使われる言葉は基本的にラオス語ですが、タイではそれをイサーン方言、あるいはイサーン語などと呼んだりします。イサーンで使われる言葉はタイ語と混ざり合って、厳密なラオス語とは変わってきていると思いますが、基本的には同じ言葉と考えて良さそうです。

演奏時の編成は歌い手が1人あるいは2人(男女の掛け合いの時など)で、使われる楽器はケーン(日本の笙がさらに大きくなったような楽器。笙のルーツとも考えられているが音は笙よりも太く存在感がある)やピン(弦楽器)が基本にあり、クローン(太鼓)が入る時もあります。

モーラムのモー(หมอ)は専門家、その道に熟達した人という意味で、日常会話では医者という意味で使われる事が多い言葉です。ラム(ลำ)は歌あるいは詩という意味になります。ですので、本来は「詩や歌を吟じる人、ラムを歌う熟達者」という意味ですが、現在は音楽の総称としての意味も持ちます

今はジャンルの名称としてモーラムという言葉が使われることの方が多いので、このサイトではモーラムという言葉は音楽のジャンル、スタイルという意味で使い、歌手に関してはモーラム歌手と表現するようにします。

モーラムとルークトゥンの違い

これを疑問に思っている人は多いと思いますが(実際自分も聞かれた事がある)、先に説明したとおりモーラムはラオス文化圏の語り物の音楽で、ルークトゥンはタイ本土の伝統音楽の要素も含まれる歌謡ですので、全くの別物です。

しかし、こういう誤解が生れる原因はタイ音楽でのジャンル別けの表記が一般的に「ルークトゥン/モーラム」とされる事が多いからだと思われます(このブログでもそうしています)。

これは分かりやすく言うと「ポップス以外」という意味として捉えてもらって良いと思います。日本の大きなCDショップなどでも、ポップス以外の音楽を「演歌/民謡」と表記されるのと同じように、タイでも同じ状況だと思っていただければ分かりやすいでしょうか。演歌と民謡が別物である事は日本人に改めて説明しなくてもお分かりだと思いますが、同じような理由で「ルークトゥン/モーラム」と表記されているのだと理解してもらえればよいと思います。

ただ、だからといって「ルークトゥン=演歌」、「モーラム=民謡」という訳ではありませんので、誤解なきよう。

モーラムの基本スタイル

1.ลำพิธีกรรม(ラム・ピティーカム)

「ピティーカム」は儀式や礼拝という意味で、儀式などで演奏されるモーラムの事を意味するのだと思います。これを1つのスタイルとして別けるかどうかは人によってい違うと思いますが、ここでは参考文献にしたがって別表記にしました。

2.ลำพื้น(ラム・プーン)

ケーンのみをバックに1人の歌手が歌う演奏スタイル。モーラムで最も古いスタイル。

3.ลำกลอน(ラム・クローン)

ケーン1本の伴奏で男女2人か男2人で歌うスタイル。1950年代が全盛だったとされる。

4.ลำหมู่(ラム・ムー)

リケー(音楽要素のある演劇)の影響を受けて誕生したスタイル。つまりモーラムを歌いながら演劇をすると理解して良いのではないでしょうか。1960年代が全盛。

5.ลำไทเลย(ラム・タイ・ルーイ)

ラム・ムーの影響を受け、ルーイ県で誕生したスタイル。基本的にはラム・ムーと同じスタイルで、使用楽器にはケーン、クローンの他にラナート(タイの木琴)が使用される。

6.ลำเตี้ย(ラム・トゥーイ)

7.ลำผญา(ラム・パヤー)

8.ลำเพลิน(ラム・プルーン)

モーラム以外の様々な芸能の要素を取り込み発展した、娯楽色の強いモーラム。現在、我々が耳にする歌謡モーラムの原点とも考えられる。

9.ลำซิ่ง(ラム・シン)

ラム・クローンのスタイルを甦らせるべく、ラートリー・シーウィライ氏が考案したスタイル。「シン」とは英語のRacingから取られていて、「すごく速い、すっ飛ばす」を意味する。そのスタイル名通り、非常にテンポの速いモーラムで現代的なイメージが強いが、重要なのは復古調であると言う事で、ラム・プルーンでは使われる頻度が減ったケーンとピンが伴奏の要として復活している点も注目すべきである。

モーラムの主要人物

ここではモーラムという音楽に携わってきた音楽家の人たちの名前を思いつく限り挙げてみたいと思います。ただ、自分は全部の歌手の音楽を聴いたというわけではありませんが、今後、モーラムをより深く知っていくためにも、これらの歌手は重要な存在になってくると思います。

1.ケーン・ダーラオ(เคน ดาเหลา)
2.
チャウィーワン・ダムヌーン(ฉวีวรรณ ดำเนิน)
3.トーンカム・ペンディー(ทองคำ เพ็งดี)
4.トーンマーク・ヂャンタルー(ทองมาก จันทะลือ)
5.ブンペン・ファイピウチャイ(บุญเพ็ง ไฝผิวชัย)
6.ラートリー・シーウィライ(ราตรี ศรีวิไล)
7.トーンシー・シーラック(ทองศรี ศรีรักษ์)
8.バーンイエン・シーウォンサー(บานเย็น ศรีวงษา)
9.チャバープライ・ナームワイ(ชบาไพร นามไว)
10.バーンイエン・ラーケン(บานเย็น รากแก่น)
11.アンカナーン・クンチャイ(อังคนางค์ คุณไชย)
12.ポー・チャラートノーイ・ソンスーム(ป.ฉลาดน้อย ส่งเสริม)
13.ドゥアンペン・アムヌアイポーン(เดือนเพ็ญ อำนวยพร)
14.スパープ・ダーオドゥアンデーン(สุภาพ ดาวดวงเด่น)
15.ピムヂャイ・ペットパラーンチャイ(พิมพ์ใจ เพชรพลาญชัย)
15.ポンサック・ソーンセーン(พรศักดิ์ ส่องแสง)
16.サーティット・トンチャン(สาธิต ทองจันทร์)
17.チンタラー・プーンラープ(จินตหรา พูนลาภ)
18.シリポーン・アムパイポン(ศิริพร อำไพพงษ์)
19.ハニー・シーイサーン(ฮันนี่ ศรีอีสาน)
20.ソムヂット・ボートーン(สมจิตร บ่อทอง)

中にはモーラム歌手と限定するには無理がある人もいるかと思いますが、ここでは一応モーラムが基礎にあると判断して、ピックアップしました。

なお、ケーン・ダーラオ氏(1930年4月3日生れ、ウボンラーチャターニー出身)はレコードやラジオなどで名前を売った最初のモーラム歌手ではないだろうか、と前川健一氏の著書「まとわりつくタイの音楽」には書かれています。

モーラムの現在とこれから

現在のモーラムはラム・プルーンから発展したラムを吟じる部分が少ない、歌謡性の高いモーラム(俗に言う歌謡モーラム)が主流になっています。それは一聴しただけではモーラムかルークトゥンか区別がつかないほど、と言っても良い状況です。そういったことがモーラムとルークトゥンを混同してしまう、と言う事につながっている事も否めません。

伝統的なスタイルをルーツとするモーラムは語り物であり、ラオス語(イサーン語)で歌われ、ヴァリエーションに乏しいという理由もあって商業ベースに乗りにくい(要は売れにくい)事から、旋律的な歌い回しが増え今に至っていますが、今後もこの流れはしばらくは続くものと思われます

そういったことから、最近のモーラムを中心に聴く人と、かつてのモーラムらしいモーラムを求めて昔のモーラムだけを聴く人と、大きく分かれているような気がしますが、個人的な希望としてはその両方をつなぐ、現代的でありながらも伝統的モーラムの要素を感じさせてくれる存在が現れてくれる事を期待したいです。

【参考文献】
◆前川 健一/著「まとわりつくタイの音楽」(めこん)
◆大内 治/著「タイ・演歌の王国」(現代書館)
บุษกร บิณฑสันต์, ชำคน พรประสิทธิ์/著「หมอลำ」(チュラロンコン大学出版)

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