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【モーラム・スペシャル・ライブ】渋谷がイサーンになった歴史的一夜

まさに歴史的一夜になったと思う。2018年2月24日、渋谷WWWで開催されたモーラム・スペシャル・ライブ。 「爆音映画祭2018タイ・イサーン特集Vol.2」の一環で行われたこのコンサート。何が凄いって、タイから人間国宝が二人も来たからである。 【爆音映画祭】特集タイ|イサーンVol.2@WWW(東京・渋谷) 今回来日したチャウィーワン・ダムヌーン(ฉวีวรรณ ดำเนิน)とポー・チャラートノーイ・ソンスーム(ป.ฉลาดน้อย ส่งเสริม)は共にタイから人間国宝と認められたモーラム歌手。 お二人は昨年(2017年)5月に東京で開催されたタイ・フェスティバルにも出演していたが、その時はタイ各地の芸能を紹介する出し物の一部に出演しただけだったので、お二人の歌をタップリ聴きたいと思っていた我々にとっては、短い時間しか聴けずに消化不良だった。 ◆チャウィーワン・ダムヌーン、ポー・チャラートノーイ・ソンスーム@タイフェスティバル2017 しかし、その欲求不満を解消してくれた今回のこのイベント。タイでもこういう形で聴く事が出来る機会は少ないので、この場に居合わせる事が出来た人達は本当にラッキーだったと思う。 思えば、ちょっと前まではまさか本物のチャウィーワンさんとお会いできるとは考えてもいなかった。 3年ほど前に「Y/OUR MUSIC」というタイのインデペンデント音楽を取材したドキュメンタリー映画がタイで公開された事があったが、その映画の中でチラッと登場したチャウィーワンさんを見て、とてもお元気そうな姿を見る事が出来て、それだけでも本当に嬉しかったものだった。 ◆Y/OUR MUSIC Trailer また、ポー・チャラートノーイ先生はラムローンの名手で、本「まとわるつくタイの音楽」でも若かりし頃の姿を拝見していたし、CDでも先生のモーラムを聴いていたので、タイフェスティバルでお二人にお会いできたのは夢のようだった。 そんな思いもあって、この日の夜は日本でのタイ音楽の歴史に於いても重要な日になっただけでなく、自分にとっても忘れられない夜になった。 会場になったShibuya WWWはかつてシネマライズ渋谷という映画館だった場所。そこの座席を全部取り払って、ライブに対応できるよう作り直されたようだ。 自分がチケットを買ったのは発売されてしばらくしてからだったが、その時もまだ余裕で買う事ができたので、お節介ながらも客入りを心配していた。しかし、蓋を開けてみれば超満員の大盛況。内心、ちょっとホッとした。 ライブは予定時間を若干過ぎてからのスタート。まず登場したのはピン・プラユックを取り入れた日本で唯一のバンド、Monaural Mini Plug(モノラル・ミニ・プラグ)。 彼らのライブは昨年9月に新宿で観た事があったが、着実な成長がうかがえたステージだった。   しかも、途中ケーン奏者の牛田君を筆頭に、客席を練り歩くという演出も見せて、約30分ノンストップの演奏に観客も大いに盛り上がっていた。 もちろんまだ発展途上で改善すべき点はあるが、ピン・プラユックに目を付けたセンスといい、メンバーが20代中盤の若さという事を考えても、将来が楽しみなバンドである。 モノミニに続いて登場したのは、こちらは大ベテランのキーボード奏者、エマーソン北村さん。 北村さんは後期JAGATARAやMUTE BEATといった伝説的バンドで活動されてきたミュージシャン。 今回は「田舎はいいね」という映画「バンコク・ナイツ」で劇中歌に使われた曲のインストカヴァーをリリースした関連でこのイベントへの参加になったようだ。 演奏曲はその「田舎はいいね」を含めて、北村さんのソロアルバムからの曲を中心に演奏された。 リズムボックスのみをバックに片手でメロディーを弾きながら、もう片方でベースを弾き、さらにミキサーもいじるという離れ業は、さすがのベテランと思わされた。 しかし、オリジナル曲はタイとあまり関係ない為、正直、場違い感があり、客席も若干冷めてしまったのは否めなかった。もう少しタイにまつわる何かがあれば良かったのかも。 3番手で登場したのはスリ・ヤムヒ&ザ・バビロン・バンド。こちらも映画「バンコク・ナイツ」に楽曲を提供している関係での出演のよう。 かれらはその「バンコク・ナイツ」の映像をバックに演奏するスタイル。音楽性そのものはタイとは何の関係もないが、キャリアもあるだけになかなか聴かせる演奏だった。 さらに雰囲気が上手く映像とマッチしていたこともあって、観客を映画に引き込んでいたのはさすがである。 バビロン・バンドの後は、主催者からの挨拶をはさみ、いよいよこの日のメインであるチャウィーワン・ダムヌーンとポー・チャラートノーイ・ソンスームの登場である。 まずはサポートを務めるポンサポーン・ウパニによるピンの独奏からスタート。 ポンサポーン・ウパニさんはタイでは「オン・ケーン・キアオ(อ้นแคนเขียว)」という名前で活動している(チャウィーワンさんもそう紹介していた)。この名前は「緑のケーンのオン(オンはバンブーラットorルートラットというねずみの事で、彼のニックネームだと思われる)」という意味で、ウパニさんのトレードマークである緑のケーンを冠した名前である。 ピンの独奏の後は、ピンをそのトレードマークである緑のケーンに持ち替えて、ケーンの独奏。日本人はケーンがよっぽど好きなのか、これだけで大盛り上がりである。 そして、ようやく人間国宝の二人が歌い始める。 まず、チャウィーワンさんが感謝の念をこめたラムを歌い、続いてチャラートノーイ先生がそれを受け継ぐというスタイルで序盤は進行していった。 凄かったのは、二人の年齢を感じさせない声の力強さである。一節でその場の空気をガラリと変えてしまう力が、言葉の壁を越えて我々の耳にダイレクトに響いてきた。 さらにウパニさんの巧みなサポートもあり、3人だけの演奏でも会場は伝統音楽のコンサートとは思えない熱気に包まれていた。 しかし、この日の最大の見せ場はこの後であった。エマーソン北村さんとバビロン・バンドの面々が演奏に加わり、この日限りのスペシャル・セッションがスタート。 「私は年寄りだから応援してね」などとチャウィーワンさんが冗談まじりに言っていたが、いやいやどうして、バンドに負けじとこの日一番のパワフルな歌を聴かせてくれた。 伝統音楽の歌手が軽々とジャンルを飛び越えてしまう事に、我々日本人は驚かずにいられない。伝統と現代の融合が一向に上手くいかない日本の音楽界からしたら、なんとも羨ましい光景である。 ここで演奏されている曲「ラム・トゥーイ・チャウィーワン()」は、大ヒットコンピCD「The Sound of Siam Vol.1」にも収録されている。 日本のミュージシャンとタイの歌手とのスリリングな攻防は3曲ほど続き、大盛り上がりで一夜限りのスペシャル・ライブは幕を閉じた。 ・・・はずだったが、やはりこのまま帰るのは名残惜しいと、観客はアンコールを求めた。しかし、実はタイにはアンコールの習慣がない。 最近、ポップス・ロック系のコンサートではある時もあるのだが、ルークトゥン・モーラムのコンサートでは、通常、歌手が「さよなら~」と言ったらそこでお終いである。観客もそのまま素直に帰る(というか、終わりが近づいて来たら、コンサートが続いていても帰り始める)。 にもかかわらず、観客の要望に応えてくれて、特別に1曲歌ってくれた人間国宝の二人。この最後の1曲がもしかしたらこの日の最高の1曲だったかもしれない。 これだけ反応が良ければ、歌っている人達の気分も悪かろうはずはない。お二人も明らかに機嫌が良さそうに思えた。 チャウィーワンさんは最後に、このコンサートを企画してくれたSoi48の二人の名前を呼びながら「日本の二人の息子がここに来る機会を与えてくれました。私は74歳(チャラートノーイ先生は71歳)になりますが、このステージに立てて本当に幸せです。」という言葉で締めくくってくれた。 そして、この歴史的一夜を体験できた私たちも本当に幸せだった。こんなチャンスを作ってくれたSoi48の二人と主催のboidさんには感謝の念でいっぱいである。  

【モーラム・ミーツ・ダブ】Siang Hong Lionsが示す未来のモーラム

雑食性の高い音楽「モーラム」 モーラムはこれまで様々な音楽を取り込んで成長してきた雑食性の高い音楽です。 ロックはもちろん、ヒップホップやドラムンベースetc・・・。その節操の無さは、世界中のポピュラー音楽の中でも、群を抜いていると言えるでしょう。 だからこそモーラムは今も活力のある音楽としてタイの人々に人気があると言えます。そこがすっかり元気の無くなったルークトゥンとは大きく違う所でしょう。 そして、今も絶えず変化し続けています。それこそ「モーラム」が崩れるのを全く恐れる事なく。 そのモーラムの可能性をさらに広げる事につながる試みをしたCDがありました。2000年にリリースされたイギリスのミュージシャンJah Wobbleによるアルバム「Molam Dub」がそれです。 ここではタイトル通り、モーラムと「ダブ」との融合が行われています。 このアルバムではJah WobbleのプロジェクトThe Invaders of The Heartとラオスのミュージシャン達と共演し、その音源がダブミックスされています。 浮遊感漂うスペーシーなミックスはこれまでに無かったサウンドですし、録音物において緻密な音作りという意識がまだまだ低いモーラムに、大きな変化をもたらす可能性のあるユニークな試みでした。 しかし、このアルバムは外部のミュージシャンによる企画物であった為、これ一度きりで終わってしまっていたのが残念な所です。 それから数年後、このアルバムに影響を受けたかどうか分りませんが、タイ人によるこの試みを受け継ぐ者たちが現れました。 それがSiang Hong Lionsというグループです。 モーラム+ダブ=未来のモーラム このSiang Hong LionsはタイのレゲエバンドSrirajah Rockersから派生したプロジェクトで、ベースとミキシングを担当しているのはSrirajah Rockersのメンバーでもあります。 なので、パーマネントなグループという訳ではなく、通常は別のバンドなどで活動しているメンバーがSiang Hong Lionsでのライブなどがある時に集まってくるようです。 最初に彼らを知ったのは「MOLAM KARMA SOUND SYSTEM E.P.」という3曲入りのミニアルバムを聴いた時でした。 このアルバムは「グローン・ガム(กลอนกรรม)」という曲の3つのヴァージョンが収録されているシンプルなものなのですが、ケーンとレゲエのリズム、そしてダブが上手く融合された興味深いサウンドになっていました。 先のJah Wobbleのアルバムでは、伝統的なモーラムに無理やり最先端のリズムをはめ込んでいて、どこか消化不良な部分も感じられましたが、このSiang Hong Lionsの場合は非常にナチュラルにモーラムとダブがミックスされていて、取って付けたようなぎこちなさが感じられない所に好感が持てました。 しかし、1曲の3つのヴァージョンだけでは、このプロジェクトの全貌をうかがい知る事は出来ません。真価を確かめるにはやはりライブを観なければ、と思っていた時にバンコクのトンローにあるDJ Maft Sai氏のお店「Studio Lam」で彼らのライブがあるという事で、観に行ってみました。 この日はミキサーも含め9名のメンバーが集合し、Srirajah Rockersファンや感覚の鋭い音楽ファンで狭い店内がいっぱいになっていました。 肝心のSiang Hong Lionsのサウンドの方ですが、CDとはまったく違う厚みのあるサウンドと、確かなテクニックに裏打ちされた演奏、そして浮遊感漂うダブミックスは期待以上のものでした。 そして、レゲエという異ジャンルのリズムを下地にしながらも、ピンとケーンがイサーンの光景を描写していて、彼らにしか出来ない唯一無二のサウンドと言えるでしょう。 ただ、このお店は照明が全く無いので、当日僕が撮影した動画はほぼ真っ暗ですが、サウンド的には最高ですので、繰り返し見ても全然飽きません。 惜しいのは、先にも書いたように彼らがパーマネントなグループではないという事です。故に、活動回数もあまり多くなく、このサウンドを体験できるのも限られてしまっています。 願わくば1枚だけでもアルバムを作ってほしいですね。そして、彼らの意思を受け継ぐバンドが現れてくれると、モーラムはもっと面白くなってくるのではないでしょうか。

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