【アルバムレビュー】ラムシン・リズム:これがインリーの本気のラムシンだ!

レヴュー

「ついにインリーが、ラムシンの最前線に帰ってきた!!!」

彼女の(Grammy Goldからの)4thアルバムである「ラムシン・リズム(ลำซิ่งลิซึ่ม)」を聴いた時、そう思わずにいられなかった。

社会現象にもなった「あなたのハートを電話番号と引きかえに(ขอใจเธอแลกเบอร์โทร)」のヒットから早8年。

あのヒットはインリーの環境を、良くも悪くも大きく変えた。

良かったことは、名前が多くの人に知られるようになった事だろう。

それまで無名に近かった彼女の名前は、あのヒットで誰もが知るようになった。

しかし、ポピュラリティーを獲得したことで、その期待に応えなければならないという重圧を背負ってしまったのも事実だろう。

それはインリー本人というよりも、所属会社であるGrammy Goldのプロデュースのスタンスからも明確だった。

本来ラムシン歌手である彼女が、甘々なポップスばかり歌わされるようになってしまったのだ。

1stアルバム「素足のラムシン・レディ(ขาขาวสาวลำซิ่ง)」(2012年)は、ゴリゴリのラムシン満載の傑作だった。個人的にもこれまで聴いたタイ音楽の中でもベスト10に入れても良い大好きなアルバムだ。

インリーの名前を世に知らしめた傑作アルバム「カー・カオ・サーオ・ラムシン」

あの路線が好きな人間にとっては、2nd「シングルは快適(อยู่เย็นเป็นโสด)」(2015年)と、3rd「Life is So Good( ชีวิตดี๊ดี)」(2017年)の2作は、1~2度聴いた程度で、繰り返し聴きたくなる事は少なかった。

そんなインリーがようやく、彼女の本来のスタイルに戻ってきた。

やはり、インリーにはラムシンが似合っているいるし、きっと本人もこれがやりたかったに違いない。

そう思わざるを得ないほど、ニューアルバムは素晴らしい出来だ。

インリー4thアルバム「ラムシン・リズム」(2020)

収録曲は全10曲で、トータル約40分。

少しコンパクトに思えるかもしれないが、ダレることなく最後まで聴くには、ちょうどよいボリュームだ。

そして、全体の疾走感が凄い。

各曲のBPM(Beat Per Minute。1分間の4文音符の数)も102~160bpmと、100bpm以下の曲が1つも無い。これだけでも、このアルバムのテンションの高さがうかがえると思う。

通常、ルークトゥンモーラムのアルバムには、スローの曲が2~3曲は入るものだが、このアルバムでそう呼べるのはTr.5のみで、他はすべてビートが強調されたアッパーな曲ばかりだ。

さらに、何人かのアレンジャーが起用されているが、散漫な感じは一切なく、全体的なカラーが統一されている点も大きなアドバンテージだ。

ここまでトータル感のあるアルバムというのもタイ音楽では珍しい。

とにかく1曲目から引き込まれて、最後の曲にたどり着くまでがあっという間に感じる。それこそが、充実した内容になっている何よりの証明だろう。

ちなみに、アルバムタイトルの「ラムシン・リズム」とは「ラムシン中毒」という意味。

「~リズム(ลิซึ่ม)」とは、英語のリズム(Rhythm)ではなく、「何かにとつかれた状態」の事をいう。

まさに、そのタイトル通りの内容になっている事は、各収録曲を聴いてもらえれば、分かっていただけるに違いない。

インリー・シーヂュムポン(หญิงลี ศรีจุมพล)4thアルバム「ラムシン・リズム(ลำซิ่งลิซึ่ม)」

Tr.1「ラムシン・リズム(ลำซิ่งลิซึ่ม)」
คำร้อง/ทำนอง : ตุ๋ย ด๊ะดาด
เรียบเรียง : จิระวัฒน์ ปานพุ่ม

アルバムのタイトルにもなった曲(150bpm)。アルバムに先行されてリリースされた。

正直、この曲を最初に聴いた時は、良い印象は無かった。

というのも、流行を意識しすぎているように感じたから。インリーもどこか無理している印象が伝わってきたのも、その理由。

それはMVの中のダンスに原因があったのかもしれない(今でも、あのダンサーはあまり好きになれない)。

しかし、音だけをじっくり聴いてみると、時代を意識しつつも、アップデートされた今のインリーの音楽が集約されている曲だという事に気が付いた。

モーラムコンサートでもカヴァーされている、アルバムの幕開けにふさわしいダンサブルな曲である。

◆モーラム楽団ラビアップ・ワータシンのカヴァーはこちら
ลำซิ่งลิซึ่ม – เบนซ์ ชลดา & ลูกกอล์ฟ อุทุมพร ระเบียบวาทะศิลป์ (Cover​ Live​ Version)

作詞・作曲を担当したトゥイ・ダダート(ตุ๋ย ด๊ะดาด)は、2憶再生を超えるマイク・ピロムポンの大ヒット曲「ブンパラー(บุญผลา)」も手掛けた人。

Tr.2「サック・ンガック・ンガック(ซักงักงัก)」
คำร้อง : วสุ ห้าวหาญ
ทำนอง : บรรจงเวียงพล ; ตุ๋ย ด๊ะดาด
เรียบเรียง : บรรจง เวียงพล

MVがTr.1の2週間後に公開されたこの曲(126bpm)。

ミディアム・テンポであるが、ここでも「攻めのインリー」はしっかり感じ取れる。

作詞は「コン・バーン・ディアオ・ガン(คนบ้านเดียวกัน)」をはじめ、数多くのルークトゥンのヒット曲を手掛けてきた、ワス・ハーウハーン氏。

Tr.3「マイ・ラック・ヤー・フン、マイ・キットゥン・ヤー・フアン(ไม่รักอย่าหึง ไม่คิดถึงอย่าหวง)」
คำร้อง/ทำนอง : นริศ อรัญรุตม์
เรียบเรียง : บวรภัส จินต์ประเสริฐ

エレクトロニクス系の楽器の使い方がセンスの良さを感じさせてくれる、アップテンポでフロア映えしそうなアレンジの曲(140bpm)。

インリーのヴォーカルもますます冴えわたっている。

タイトルは「愛してないなら嫉妬しないで、思ってないなら優しくしないで」という意味。

【LYRIC VIDEO】
https://youtu.be/Ch5t_fXnq-g

Tr.4「サーイ・バントゥン(สายบันเทิง  feat.โอ๊ต ปราโมทย์)」
คำร้อง : ตุ๋ย ด๊ะดาด
ทำนอง : สุรพันธ์ จำลองกุล
เรียบเรียง : สุรพันธ์ จำลองกุล

インリーの歌とラップの掛け合いが楽しいこの曲(102bpm)

これまで様々なジャンルの歌手とコラボレーションをしてきた彼女だが、その経験がこの曲でも活かされているようだ。

フューチャーされているのはWhite Music所属のオート・プラーモート。彼は基本ポップス歌手のようだが、ここでは見事なラップを披露している。

タイトルは「エンターテインメント・スタイル」という意味。

Tr.5「イン・ンガオ、イン・ラウヂャイ(ยิ่งเหงา ยิ่งเร้าใจ)」
คำร้อง : วิวัฒน์ ฉัตรธีรภาพ
ทำนอง-เรียบเรียง บวรภัส จินต์ประเสริฐ

アルバム中、唯一のスロー・タイプの曲(といっても、テンポは117bpmある)。

イントロのサンプリングされたケーンの音の使い方が面白い。

タイトルは「寂しければ寂しいほど、心が躍る」という意味。

【LYRIC VIDEO】
https://youtu.be/b1eREzaUYK8

Tr.6「エーウ・ディー(เอวดี)」
คำร้อง/ทำนอง : บุญล้อม คู่กะสังข์
เรียบเรียง : สวัสดิ์ สารคาม

このアルバムの中で最もテンポの速い曲(160bpm)。故に、アッパー度も最も激しい。

そして、ここからアルバムは最後まで休むことなく一気に突き進む。

アレンジはインリーをスターダムに押し上げる事に大きく貢献した、サワット・サーラカーム先生。

やはり、この二人は相性が良い。

タイトルは「いい腰つき」という意味。

【LYRIC VIDEO】
https://youtu.be/AXW2p_vqUK4

Tr.7「ソート・エーン・ナックレーン・ポー(โสดเองนักเลงพอ)」
คำร้อง-ทำนอง : งัวน้อย
เรียบเรียง : สวัสดิ์ สารคาม

スローテンポで始まるが、途中でテンポアップする、モーラム系ではよく使われるアレンジのこの曲。

150bpmでインパクトのあるアレンジとインリーのヴォーカルが、とにかくテンションを上げてくれる。

タイトルは「孤独な自分はギャングで充分」という意味。

【LYRIC VIDEO】
https://youtu.be/HGUpiUEP7Yo

Tr.8「ボ・パーク・ガ・ヤーク・ユー・ドゥー(บ่ปากกะอยากอยู่เด้อ)」
คำร้อง / ทำนอง แม็คกี้ ฤทธิศร
เรียบเรียง สวัสดิ์ สารคาม

速いテンポながら、メロディーが印象に残る(特にサビがいい)この曲。

この曲を作ったのはメッキー・ルッティソンという人なのだが、彼はサワット・サーラカーム先生の門下生で、One31で現在放送中のテレビドラマ「恋のレシピは極上の味(สูตรรักแซ่บอีหลี)」にも出演している男性歌手。

ドラマ「スートラック・セープ・イリー」ではガポーム役を演じたメッキー・ルッティソン。

彼が曲を作る才能がある事は知っていたが、これほど高いセンスを持っていたとは、意外な発見だった。

タイトルは「話さなくても一緒に居たいんだ」という意味。

【LYRIC VIDEO】
https://youtu.be/Ok1zcD8aBbg

Tr.9「ショウ・ヂャイ(โชว์ใจ)」
คำร้อง/ทำนอง : หญิงลี ศรีจุมพล
เรียบเรียง : จอร์จ เสมา

このアルバムの中で唯一の、インリー自身による作詞・作曲の曲(152bpm)。

【LYRIC VIDEO】
https://youtu.be/C36wPbgvie8

Tr.10「カーカオ・サーオ・ロットヘー(ขาขาวสาวรถแห่)」
คำร้อง : บอย เขมราฐ
ทำนอง : บอย เขมราฐ
เรียบเรียง สวัสดิ์ สารคาม

タイトルは1stアルバムのタイトル曲「カーカオ・サーオ・ラムシン」の続編的だが、メロディーは「コー・ヂャイ・トァー・・・」を連想させられる。

というのも、作詞・作曲がボーイ・ケーマラート、アレンジがサワット・サーラカーム先生という最強コンビだからだ。

つまりこれは、ロットヘーという今っぽいテーマにアップデートされた、インリー組の大得意なスタイルの曲であると言える。

MVの中のインリーのヘアスタイルや、ステージセットがかつてのMVを思わせるのも、ファンとしては嬉しいサービスだ。

この記事を書くに当たって、何度もこのアルバムを聴き返したが、飽きるどころか、聴く度にどんどん引き込まれていってしまった。

そして、これまで沢山のタイ音楽のアルバムを聴いてきたが、このアルバムほどパッケージとしての統一感があるものには、出会った事はほとんど無い。

それほどこのアルバムは、タイ音楽における最高峰のひとつと言っても過言ではないほどのクオリティーの高さを持っていると思う。

それと、それぞれの曲にBPMを記載したのは、フロアで映えるであろう曲が多いからである。

今後、ダンスミュージックとしてラムシンが、たくさんのフロアで使われるきっかけになってくれれば嬉しい。

ただし、ひとつ注意をしてほしい事がある。それは、このアルバムがCDというフォーマットでは発売されていないという事。

MP3フォーマットのCDの中に、新作の10曲がすべてが入っているという形になっているので、その点は知っておいてほしい。

また、Spotifyなど定額配信サービスでも聴くことが出来るので、聴いてみたいと思った方はそちらもお試しいただければと思う。

◆Spotify – Yinglee SriJumpol “ลำซิ่งลิซึ่ม”
https://open.spotify.com/album/6uyQwc8F9ez7m2MJF06OUj?si=0O31Ww57T-mFs-zkRtji3w

時代も変わって、インリーも既にかつての様な旬な存在ではないが、こういう時こそ、自身の原点に立ち戻るべきだろう。

そして、インリーには今後もこの路線を突き進めていってくれる事を期待したい。

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